
ついに、ここへ来ました。
鶏冠山(とさかやま)。
山梨百名山“四天王”のひとつにして、登山者のあいだで「最恐」とも呼ばれる山です。
正直に言うと——
この山だけは、ずっと後回しにしてきました。
渡渉、連続する鎖場、三つの岩峰、そして不明瞭なルート。
調べれば調べるほど、「生半可な気持ちでは行けないな」と感じていたからです。
だから今回は、直前まで記録を読み込み、ルートを確認し、天気を見極めて挑みました。
さらに言えば——渡渉があるこの山は、梅雨入り前の晴れの日に登りたいと、ずっと狙っていました。
渡渉のある山は、水量がすべて。
雨のあとでは渡れないこともあります。
「この日しかない」という快晴予報が、ようやく背中を押してくれました。

今回ばかりは、いつもの「ゆるく楽しく」は少しだけ脇に置きました。
自分の登山経験と判断力を、全部使うつもりで臨む。(少し大げさかもですが💦)
「できるだろう」「何とかなるだろう」——
そういう甘い気持ちは捨てて、すべて自分で完結させる。
鶏冠山へのリスペクトを忘れずに。

結果から言うと——
噂どおり、タフな山でした。
でも、最恐と身構えて準備したぶん、登り終えた今は「来てよかった」という気持ちでいっぱいです。
登山歴10年以上、山梨在住のあっくんが、山梨百名山96座目・鶏冠山と、その先の木賊山〜甲武信ヶ岳の縦走記録をお伝えします。
「最恐」は、
ちゃんと備えれば「最高」に変わる。
- 鶏冠山に挑戦したいけど、不安で踏み出せない人
- 三大岩峰・鎖場の難易度を事前に知っておきたい人
- 鶏冠谷の渡渉が気になっている人
- 山梨百名山を本気で完登したい人
はじめに 鶏冠山に登る前に知っておきたいこと
鶏冠山は、山梨百名山のなかでも難易度の高い山です。
一般的な日帰り登山の感覚で入ると、かなり手強く感じると思います。
とくに注意したいポイントは、次の4つです。
- 鶏冠谷の渡渉があり、増水時は撤退判断が必要
- 第一〜第三岩峰にかけて、鎖場と岩稜歩きが続く
- 第三岩峰の直登はクライミング装備がない場合は避け、巻き道を選ぶのが現実的
- ヘルメット、渡渉用サンダル、水分の余裕はしっかり準備したい
「行けるかどうか」よりも、「危ないと思ったら引き返せるか」。
鶏冠山では、その判断力がとても大事だと感じました。
コース概要【鶏冠山〜木賊山〜甲武信ヶ岳 縦走】
- 行動時間: 10時間44分(休憩1時間39分含む)
- 距離: 15.5km
- 累積標高差: のぼり1,844m/くだり1,854m
- コース定数: 43(「きつい」判定)
- 体力度: ★★★★★(上級者向け)
- 技術度: ★★★★★(渡渉・連続する鎖場・三大岩峰・ルートファインディング)
鶏冠山はどんな山?

鶏冠山は、山梨県山梨市に位置する標高2,115mの山です。
奥秩父山塊の一座で、日本百名山・甲武信ヶ岳の前衛峰である木賊山(とくさやま)から南へ伸びる鶏冠尾根上にあります。
山名は、山頂付近に連なる岩峰がニワトリのトサカのように見えることに由来するとされています。
西沢渓谷・二俣吊橋付近からは、ギザギザとした特徴的な岩稜を望むことができます。
鶏冠山は山梨百名山に選定されている山で、そのなかでも「山梨百名山・四天王」と呼ばれる難峰のひとつに数えられています。
山梨百名山・四天王とは、一般的に笹山(黒河内岳)、笊ヶ岳、鋸岳、鶏冠山の4座を指します。
いずれも山梨百名山のなかで難易度が高い山として知られ、長い行動時間、標高差、岩場、ルートの不明瞭さなど、それぞれに厳しさがあります。
そのなかでも鶏冠山は、渡渉、鎖場、岩稜、ルートファインディングが凝縮された山です。
鶏冠山には、一般登山者向けの整備されたコースはありません。
東沢と鶏冠谷の合流点付近で渡渉し、鶏冠尾根をたどって山頂を目指すルートは、岩場の通過、体力、ルートファインディングが求められる難路です。
稜線上には第一岩峰・第二岩峰・第三岩峰が連なり、第三岩峰ピークを越えた先に、標高2,115mの鶏冠山最高点があります。
現在、山梨百名山の標柱は、この鶏冠山最高点に設置されています。
山梨百名山のなかでも難易度の高い山として知られ、十分な準備と慎重な判断が必要な山です。
アクセス・駐車場
🚗 車でのアクセス
中央道「勝沼IC」から国道140号を雁坂トンネル方面へ。
道の駅みとみを過ぎてすぐ、西沢渓谷の市営駐車場が起点になります。
🅿️ 駐車場情報
西沢渓谷市営駐車場
- 料金:無料
- トイレ:あり
- 当日は5時前で半分以上が空いていました(ただし観光・渓谷散策の人も多いエリアなので、シーズンは早着推奨)

🚌 電車・バスでのアクセス
JR中央本線・塩山駅から山梨交通バスで「西沢渓谷入口」下車。
※本数が少ないので事前に時刻表をご確認ください。山梨交通バス・塩山駅ー西沢渓谷入口 時刻表
※鶏冠山は行動時間10時間超えの超ロングコース。バス利用だと時間的にかなりシビアです。
マイカーを推奨します。
行動データ
西沢渓谷駐車場を起点に、鶏冠谷から鶏冠山へ取り付き、
木賊山・甲武信ヶ岳を踏んで、戸渡尾根〜近丸新道で周回するルートです。
西沢渓谷駐車場 → ゲート → 鶏冠谷出合(渡渉) → 第一岩峰 → 第二岩峰 → 第三岩峰(迂回路)→ 第三岩峰ピーク → 鶏冠山(最高点) → 木賊山 → 甲武信小屋 → 甲武信ヶ岳 → 戸渡尾根 → 近丸新道 → 西沢渓谷駐車場
- 行動時間: 10時間44分(休憩1時間39分含む)
- 距離: 15.5km
- 累積標高差: のぼり1,844m/くだり1,854m
- コース定数: 43(きつい)
なお——
鶏冠山から先のルートは、事前に決めていませんでした。
鶏冠山に着いてから、そのときの疲労感と体力で判断するつもりで。
木賊山・甲武信ヶ岳は、言ってしまえば“おまけ”。
天気が良かったから足を延ばした、という流れです。
下山に近丸新道を選んだのも、去年は徳ちゃん新道を歩いたので、今年は違う道にしたかったから。
「決め切らずに、現地で決める」——
これも難ルートと向き合うときの、ひとつの安全マージンだと思っています。
登山日記|① 西沢渓谷駐車場→鶏冠谷出合・渡渉
朝5時、西沢渓谷駐車場を出発。
ロングコース&難ルートなので、今日は早出です。
空はまだ薄暗いものの、予報は一日中の快晴。
「狙ってきた日が、ついに来た」——そんな高揚感がありました。
ゲートを抜けて、しばらくは渓谷沿いの平坦な道。

二俣吊橋の中程まで来ると、右手に鶏冠山が姿を現します。

ギザギザに尖った岩の稜線。
「あれを登るのか……」と、思わず足が止まりました。
かっこいいけど、ちょっと怖い。これが第一印象です。


一般登山道から外れ、東沢へ。
ここから先は、ぐっと雰囲気が変わります。

そして、最初の関門——渡渉。

水量は、思っていたとおり少なめ。
一年前から梅雨入り前の晴れを狙ってきた甲斐がありました。
とはいえ、油断はできません。
ちょうど後ろから来たトレラン風の二人組が、ひょいひょいと石跳びで渡っていきました。
「オレも飛べるかな?」——一瞬、そう思いました。
でも、やめました。
ここで転倒しては、元も子もない。
準備してきたんだ、という思いが勝ちました。
迷わずサンダルに履き替えることに。
(水の中は苔で滑るので、サンダル持参は大正解でした)
サンダルに履き替えていると、別の二人組がやって来ました。
「さっき石跳びして二人、行っちゃいましたわ。オレは履き替えますけどね」
そう声をかけると、
「僕たちも、滑ったら嫌なので履き替えます」と。

同じ判断をする人がいると、なんだかホッとします。
先に行ってもらって、二人が渡渉。
自分はそのあとをついて、無事に渡り切りました。

周りに流されない。
時間がかかっても、笑われても、オレはオレのやり方で行く。
山では、人のペースより「自分の安全」を選べる人が強い。
そして——
渡り切ったあとも、この二人は少し先を歩いていきました。
この二人組とは、このあと木賊山まで、不思議なご縁が続くことになります。

② 鶏冠尾根取り付き→ヘルメット装着→岩稜帯へ
渡渉を終えると、いよいよ鶏冠尾根の取り付きです。


最初から急登。
ロープが張られた区間が次々と現れます。


ロープゾーンを越え標高を稼ぐと、第一岩峰のコルに着きました。


ここでヘルメットを装着⛑️。
ここから先は落石・滑落リスクのあるゾーン、気を引き締めます。
登るほどに高度感が増し、足元には花の彩り。



イワカガミが咲き始め、シャクナゲも見頃。
緊張感のある岩場のなかに、ふっと心を緩めてくれる瞬間がありました。
この“張り詰めた空気と花のやさしさ”の同居が、この時期の鶏冠山の魅力かもしれません。
③ 第一岩峰・第二岩峰・第三岩峰(核心)
ここからが、鶏冠山の核心。
まずは第一岩峰。

続いて第二岩峰。
鎖場が続きます。

結論から言うと——
第一・第二岩峰は、足場も手がかりもあります。
三点支持で落ち着いて行けば、過度に恐れる必要はありませんでした。
ひとつ印象的だったのが、第二岩峰。
先行していたあの二人組に追いつきました。
どうやら鎖が左の岩に振られていて、手こずっているようでした。
右側に鎖を渡し直して、登ることができました。
自分もそのおかげでスムーズに通過できました。

実はこの二人組、渡渉ポイントで一緒に靴を履き替えた、あの二人。
そこから木賊山まで、ずっと自分の少し先を歩いてくれていました。
二人のクマ避け鈴の音が、いつのまにか“先行の合図”になっていました。
「チリンチリン」と前から聞こえてくると、「うん、こっちで合ってるな」と安心できる。
不明瞭なルートのなかで、あの鈴の音が合図になっていました。
ペースもほぼ同じ。
近づくこともあれば、遠くなることもある。
近づきすぎたら、自分は少し離れたところで休憩して、間合いを取る。
お互いの距離感を保ちながら、それでも前後に気配を感じている——
そんな関係でした。
自分はソロ登山ですが、こういう“ゆるいつながり”に助けられました。
そして——第三岩峰。

これが鶏冠山“最恐”の象徴ともいえる、ほぼ垂直の岩壁です。
目の前にすると、写真で見ていた以上の迫力がありました。
手がかり、足がかりも乏しく、ここを無理に登る場所ではないとすぐに感じます。
第三岩峰は、計画の段階から迂回路を選ぶつもりでした。
過去の記録を調べても、直登にはクライミング装備が必要とされています。
ここは見栄を張る場所ではありません。
無理をして登るより、安全に通過することのほうがずっと大事です。
迷わず巻き道へ進みました。

④ 第三岩峰ピーク→鶏冠山(最高点)
巻き道で分岐まで進んだら、少し戻って第三岩峰ピークへ。

ピークには、手持ち看板がありました。
そして振り返ると——
富士山!

しかもその手前には、今月登ったばかりの乾徳山と黒金山。

「あそこから、ここを見ていたのか」
先日の自分と、今日の自分が、景色のなかでつながった瞬間でした。
こういう“山のつながり”が見えると、山梨百名山を歩いてきてよかったと心から思います。

先に到達した二人組に写真を撮っていただきました。
最恐の岩稜を越えた人どうし、自然と笑顔になります。
そこから木賊山方面へ少し進むと、鶏冠山の最高点。

山梨百名山96座目・鶏冠山、登頂!
このときの気持ちは、ただ一言。
「やった。」
そして、正直なところ——「意外と行けた」と素直に思えました。
でも、それはきっと余力を持って登れたからこその感想です。
もしどこかで失敗していたら、そうは思えなかったはず。
余裕を残して山頂に立てたこと自体が、今回の準備の答えでした。


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