⑤ シャクナゲ漕ぎ→木賊山→甲武信ヶ岳
実は、鶏冠山は「登頂したら終わり」ではありません。
ここでひとつ、ルートの判断がありました。
鶏冠山のピークを踏んだあと、来た道をそのまま下山するという選択肢もあります。
ただ、岩場の下山は登り以上にリスクが高いもの。
道中の看板でも、下山中の事故が多いことが繰り返し注意喚起されていました。

もちろん、疲労が大きければ無理は禁物です。
でも今回は、天候も安定していて、体力にもまだ余裕がありました。
そのため、鶏冠山から木賊山方面へ抜けることにしました。
最初から「絶対に行く」と決めていたわけではなく、その場の体力と状況で判断するつもりでした。
難ルートでは、決め打ちしすぎないことも大事。
そのときの自分に余力があるか、天気は崩れないか、時間は足りるか。
ひとつずつ確認しながら、先へ進むことにしました。
そして、この先に待っていたのが、本当の難所でした。
ここから木賊山(とくさやま)へ向かう破線ルートです。


道は不明瞭。倒木は当たり前。
そして名物のシャクナゲ漕ぎ。
聞いていたとおりで、これに疲れ果てました。
距離以上に、とにかく長く感じる区間です。

そして——ここで一度、完全にルートをロストしました。

山裾のトラバース道に出たあたり。
「あれ、道がない。おかしい」と感じた瞬間、すぐに立ち止まりました。
そのまま進まず、まずはYAMAPのGPSを確認。
周囲のピンクテープと踏み跡を探し、正規ルートへ戻りました。
このルートは、バリエーションルートのわりにピンクテープは多いほうだと思います。
踏み跡もあります。
でも、それでも見失うことはあります。
だからこそ、「迷った」「おかしい」「道がない」と思ったら、すぐに止まる。
GPSを確認する。
ピンクテープを探す。
踏み跡が消えたら、無理に進まず戻る。
ここは、登山者の総合力が試される場所でした。

苔むした原生的な森や、眼下の広瀬ダムの眺めに励まされながら前へ。

ようやく木賊山に到着。
ベンチでは、あの二人組が休憩していました。
渡渉から木賊山まで、ずっと前を歩いてくれていた二人です。
「長かった〜」
「おつかれさまでした」
自然とそんな言葉を掛け合いました。
同じ道を、同じだけ苦労して歩いてきた者どうし。
言葉は少なくても、通じるものがありました。

二人はここから下山するとのこと。
自分はというと——甲武信ヶ岳まで足を延ばすか、正直まだ迷っていました。
鶏冠尾根でだいぶ消耗していたので。
すると、二人が背中を押してくれたんです。
「天気いいから、行ったほうがいいですよ」
「甲武信ヶ岳は何度も行ってるからもう帰るけど、
晴れの日の甲武信ヶ岳、まだ行ってないなら絶対行った方がいい」
その一言で、決めました。
ここから先、登山道が一気に“整備された道”に変わります。
鶏冠尾根の荒れ具合を味わったあとだと、
普通の登山道のありがたみを、しみじみと感じました。
道が整っているというのは、本当にありがたいことなんですね。


甲武信小屋を経て——
二人に背中を押されて、“忘れ物”を取りに行くような気持ちで甲武信ヶ岳へ。




八ヶ岳、金峰山、三宝山。
そして木賊山から伸びる鶏冠尾根——さっき自分が漕いできた道です。
山頂は人混みのなか、おにぎりでランチ🍙。
鶏冠山の静けさとは打って変わって、こちらは大賑わいでした。
ただ、ひとつだけ残念だったのが——
甲武信ヶ岳からの富士山。

前回は曇り&ガスで視界不良。
今日こそは、と期待していたのに、この日に限って富士山だけが雲隠れ。
一日中あんなに晴れていたのに、です(笑)
どうも甲武信ヶ岳と富士山とは、相性が良くないみたいです😢
それでも、ほかの山々はしっかり眺められたので、良しとしましょう。
……あの二人組に「晴れの日の甲武信ヶ岳がいい」と背中を押されてきたのに、
肝心の富士山が雲隠れとは(笑)
もちろん、この時はまだそんなオチが待っているとは知る由もなく。
それでも、あの一言がなければここまで来なかったわけで。
富士山は隠れても、来てよかったと思える山頂でした。
⑥ 戸渡尾根→近丸新道→下山
下山は、戸渡尾根をゆっくりくだっていきます。



下りはじめると、まさかのシャクナゲロード。
つぼみもまだ多く、しばらく楽しめそうです。
ツツジも元気で、新緑も鮮やか。
鶏冠山の緊張感から解放されて、心からこの景色を味わえました。

近丸新道に入ると、再び沢沿いへ。
ここの渡渉は水量が少なく、石跳びでクリアできました。

……と、油断したのがいけませんでした。

危なそうな丸太橋。
わたるのは怖いので、
山側の左の枯葉ゾーンに何気なく足を踏み入れたら——
枯葉の下が、沢でした。ドボン💧

まさか落ち葉の下に水が流れているとは。
最後の最後で靴が浸水です。
朝イチの渡渉はサンダルで完璧に成功したのに、
こんなところで足を濡らすとは……。
まあ、こんなこともあります。
むしろ、最恐の山にきれいなオチがついたかな、と(笑)

近丸新道は、かつての鉱石運搬用の軌道跡が残る、歴史を感じる道でもあります。

最後は渓谷沿いの道を、鳥とカエルの大合唱に送られながら。

駐車場から、もう一度あのギザギザの稜線を見上げて——
おつかれ山でした⛰️
鶏冠山登山のよくある疑問
- Q鶏冠山は初心者でも登れる?
- A
初心者だけでの入山は避けてください。
渡渉、鎖場、岩稜歩き、不明瞭なルートが続くため、体力だけでなく判断力も必要です。少なくとも、岩場や鎖場のある山を何度か経験していて、GPSや地図を確認しながら歩ける人向けの山だと感じました。

- Q鶏冠谷の渡渉は難しい?
- A
渡渉の難易度は、その日の水量によって大きく変わります。
今回は梅雨入り前の晴天続きで水量が少なく、比較的渡りやすい状況でした。
それでも水中の石は苔で滑りやすく、転倒すれば登山開始直後から大きなトラブルになります。自分は渡渉用サンダルに履き替えて渡りました。
濡れてもいい靴(と靴下)が必要です。
石跳びで渡れそうに見えても、不安があるなら無理をしないほうがいいと思います。

- Q第三岩峰は直登したほうがいい?
- A
クライミング装備がない場合は、巻き道を選ぶのが現実的です。
第三岩峰の直登は、通常の登山装備だけで無理に挑む場所ではありません。
自分も最初から巻き道を選ぶつもりで入山しました。山では、登る勇気よりも、無理をしない判断のほうが大事な場面があります。

- Q鶏冠山にヘルメットは必要?
- A
必要です。
第一岩峰以降は、岩場や鎖場が続きます。
落石や滑落のリスクもあるため、ヘルメットは必ず持っていきたい装備です。
- Q鶏冠山から木賊山までの道はわかりやすい?
- A
わかりやすいとは言えません。
ピンクテープや踏み跡はありますが、倒木やシャクナゲ漕ぎも多く、ルートを見失いやすい区間があります。GPS、地図、コンパスを確認しながら歩くことが大切です。
「たぶんこっちだろう」で進むのではなく、不安を感じたらすぐに立ち止まって確認する。
この意識がかなり大事だと感じました。

まとめ “最恐”は、備えた人にとって“最高”になる
鶏冠山を歩き終えて、丸一日が経ちました。
正直に言うと——まだ余韻に浸っています。
達成感が、すごい。
それだけすごい山だった、ということだと思います。
ついでに筋肉痛も、すごいです。明日はもっと痛くなるかもしれません(笑)
渡渉、連続する鎖場、三大岩峰、シャクナゲ漕ぎ、ルートロスト。
たしかに難所だらけでした。

コース定数43、行動時間10時間超え。
体力的にも、かなりタフな一日でした。
でも、ルートを調べ、天気を見極め、ヘルメットと渡渉用サンダルを準備して臨んだからこそ、余力を持って楽しむことができました。

正直、こういう登山ハイ——
アドレナリンが出る、あの高揚感を味わえる山は、やっぱり楽しいです。
また登りたい。
心からそう思える山でした。
もちろん、細心の注意を払って、ですが。
「最恐」の名前だけで敬遠するには、もったいない魅力が詰まった山です。

これで山梨百名山も96座目。
完登まで、いよいよ残りわずかです。
最後まで、一座一座にリスペクトを忘れずに歩いていきます。
ただし——最後にひとつだけ。
鶏冠山に行くなら、「晴れ」と「準備」だけは妥協しないでください。
渡渉は、増水すれば渡れません。
岩稜は、濡れれば一気に危険度が跳ね上がります。
天気予報をしっかり読んで、装備を整えて。
「できるだろう」ではなく、「すべて自分で完結させる」気持ちで。
そのうえでなら、鶏冠山はきっと、忘れられない一日をくれるはずです。
持ち物・装備メモ(今回の反省点)
今回のような難ルートでは、装備の判断がそのまま安全に直結します。
実際に歩いてみて感じた、リアルなメモを残しておきます。
- ヘルメット:必須。岩稜帯では絶対に着けたい。
- 渡渉用に濡れても良い靴(サンダルなど):大正解。水中はコケで滑るので、石跳びに自信がなければ迷わず履き替えを。
- 水:2.5L携行→2.0L消費。余分に持っていって正解でした。行動時間が長い山では、水の余裕=安心の余裕です。
- 日焼け止めを忘れたのは痛恨:青天の甲武信ヶ岳山頂はランチ中もジリジリ。顔と首はしっかり焼けました。樹林帯が多いコースなので致命傷ではなかったものの、晴れ予報の日は絶対に忘れずに。
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